『魔性の渓谷・・・中章』


人騒がせな魚菜・・・

 朝食の時に少し慌てた。「朝起こしてくださいね」と魚菜が言うものだから、7時半ごろ鍵の掛かった魚菜の部屋をノックするが返事が無い。食堂に下りていっても、いない。再度大声で呼んだり電話をかけても出てこない。玄関まで下りていったが、やlはりいない・・・部屋で死んでいる・・・そう思って私は青ざめた。昨日のユキザサの食いすぎか???、と、魚菜の死体が頭に浮かんだその時、佐藤さんが出てきて、「お連れさん、なんかさっきウロウロされていましたよ・・・」と言ってくれたのでホッとしたのであるが、なんのことはない、向かいのコンビニに電池を買いに行ってたそうだ。この人騒がせモノが!

 ヨブスマソウのおひたしが朝食に出た。キク科特有の香りがするが、上品でおいしい。魚菜はなにやらブツブツつぶやきながら、時折フンフンとうなずき、においをかいだり舐めたりしながら味を確かめている。初めてのものを食べる時はいつもこうである。私は慣れているが、常人が見たら多分気味が悪いに違いない。しかし魚菜が初めて女性を知った時はいったいどういう仕草をしたのであろうか・・・と考えると、笑いがこみ上げてくる。

 こみ上げる笑いを抑えながら飯を食い終わったころ、女将さんが、宮川さんがみえましたよと呼びにきてくれた。そういえば昨夜、佐藤さんが「キノコの四季」のHP主催者の宮川さんが朝ここにやってくることになっていると言っていたっけ・・・。さっそくロビーでコーヒーをいただきながら会って話をした。

アミガサタケと宮川氏製作のCD

 キノコ好きな人はぜひHPを訪れて欲しいが、一見して学研肌の一途な人物である。語る内容もキノコマニアそのもので、最近はアミガサタケに凝っているらしく、いわく「アミガサタケと立ち小便の関係について」とか、「アミガサタケとウドとの関係について」とか・・・これも知らぬ人が聞いたらわけの分からない話を大真面目に語る姿が、少なくとも私から見たら高尚に見えたのである。こういう人物がいて初めて、我々は自分の興味を持った分野の扉を開けることが出来るのである。写真のCDは宮川さんが自作したもので、美しい写真とともに宮川ワールドを垣間見ることが出来る。彼自身が何年間も自問自答し、多大なシュミレーションの中で生み出してきたものの蓄積である。領価2000円は決して高くないどころか、大変安いと思う。

 さて、予定より少し遅れて我々は出立した。佐藤氏に山菜のありかを聞き、地図まで書いてもらい、なおかつ軽トラで途中まで送ってもらって・・・およそ自然派と呼ばれるにはおこがましいような接待を受けて・・・我々は妙高スキー場中腹に降り立った。

 まだ雪が残る妙高スキー場はウドの宝庫である。ちょうど時期もよく、立派なものが先を争うように芽を吹いている。ハンゴンソウ、ヤマブキショウマ、ヨブスマソウ、コシアブラ、タラ・・・周りが山菜で溢れている。花はツバメオモト、エンレイソウ、サンカヨウなどが目を楽しませてくれる。天気も良く、いや、良すぎるくらいで、我々は大汗をかきながらチャンピオンコースの急傾斜を登る。実際、何も無い平原をダラダラ登るほうが、木の生えている山を登るよりも辛い。

 教えてもらったあたりに、確かにユキザサが芽吹いていた。近くにナルコユリも芽を出している。ここで約束の12時になり、一風から電話。2時に木島平の役場に待ち合わせる。ここから一時間弱の距離だから、下山して軽く飯を食って、買い物をしていけばちょうど良いだろう。

カヤノ平

 一風とsonetaと役場の駐車場で落ち合い、そのまま2時ごろにキャンプ地のカヤノ平に着く。本来は奥志賀林道内でキャンプを張れるといいのだが、今年は雪解けが遅れたり崖崩れなどで林道がまだ開通していないのだ。しかしここはキャンプ場にもなっているため、トイレや水もあり便利といえば便利である。我々のほかにも数組の野営組がいるようだ。さっそくターフを張り、一風が火を起こす。薪が足りないと判断した一風隊長が魚菜とsonetaに薪集めを命じている。

コシアブラ・ヨブスマソウ・ウド・ナルコユリ・タラ・ユキザサ・ハンゴンソウ

 今日の収穫がそのままてんぷらや味噌汁となり、夕餉の菜となる。昨年失敗した味噌汁も本年度は一風一人が作り上げ、めでたく成功した。昨夏の海の幸ブイヨン同様魚菜がお代わりお代わりを連発し、後で聞いたら4杯も食ったらしい。そのほかは一風が持ってきてくれた蕗味噌やら煮物などがテーブルに並べられた。

キャンプ晩餐会の1コマ

 日が陰ると、結構寒くなってくる。早い夕食が終わり、そのうちsonetaがそわそわし始めた。温泉に行きたがっているのだ。しかし誰も何にも言わないので、近くに馬曲(マグセ)温泉なんていうとっても見晴らしのいい温泉があるんすけどねぇ・・・行きません?ん?・・・てな調子で催促している。それに乗せられた弟子が「行こうよ〜行こうよ〜」と騒ぎ始めて仕方なく私が二人を連れて行くことになった。で、行ってきたが、ヌルヌルもしていない普通の温泉で、見晴らしもたいしたことは無い、それにしては混雑した・・・つまり行くだけの価値の無い温泉であった。帰ると第二次晩餐会が始まった。これも一風が持ってきてくれた「チマキ」と呼ばれる牛のスネ肉の一部を火で炙って食った。一風以外は全員が初めての部位の肉であったが、スネ肉にしてはやわらかく、味も良かった。弟子はそのチマキを食べながら「チマキはどこにあるの?」と聞いてくる。人の言ってることをぜんぜん聞いていない・・・。ホルモンも一袋、とびっきり美味しい味付けを食ったが、よく考えたら以前わざわざ一風に送ってもらっていたホルモンではなかったか?・・・と後で思い起こした。

 10時半ごろ就寝。早く寝たのは疲れたからではなく、寒かったからである。なにせここは標高1500m。気温は8時で5℃であった。風が吹くと寒さが身にしみる。と言って焚き火に近づくと今度は煙たかったり・・・そんなこんなで、明日の朝も早いし、そろそろ寝ますかね、ってことになったのである。

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