9/23


朝日スーパー林道

旅館でもホテルでも、朝食はどんなに早くても7時と決まっている。一風氏が内心「朝食抜き」で夜明けとともに宿を出て朝日に向かいたいと思っていることは分かっているが、私は(早朝でも良いのだが)ちゃんとメシを食い、トイレも済まさないと行動が起こせない。生活のリズムというヤツだ。そしてo_kiraku氏もノンビリ屋さんなので、一風氏もシブシブにせよ我々に合わせざるをえない。

一風氏は愛犬のティーピーを連れている。漆黒のラブラドールのメスである。水に潜るチキータは彼女の子供であるらしい。

したがって彼女も水が大好きだ。沢に石を投げ込んでやると、飛び上がって石を探しに行く様が目に楽しい。沢を見て興奮気味なのはティーピーだけではなく、その飼い主も同じだ。嬉しそうにザブザブと浅瀬を渡ってゆく。なにせこの一ヶ月仕事仕事で休んでいない。彼にとってみても今日は貴重な休日なのだ。私が彼に休みを取ってもらおうと、この計画を画策したことに気づいてくれているだろうか(笑)。

その一風氏がさっそくウスヒラタケの群生を見つけた。枯れたブナの立ち木にビッシリとついている。

キノコを採る際、o_kiraku氏はちゃんと新聞紙で作った袋を用意している。そしてリュックサックには発泡スチロールの箱が入っている。その中にキノコを入れれば、たしかにキノコが蒸れないし、崩れにくいのでグッドである。山歩きの知恵である。彼のリュックからは何でも出てくる。まるでドラえもんのポケットみたいだ。輪ゴム、ロープ、釣竿から「道に迷わない秘密兵器」などという一見役に立ちそうも無いものまで、何でも入っている。彼が旅の前夜にリュックに荷物を詰め込んでいる様子を想像して、私は思わず笑ってしまった。

沢沿いにはふた抱えどころか、み抱えもあるようなミズナラが、ポツポツと立っている。木の周り一メートル半がマイタケの生活圏らしい。ところでミズナラという木は沢、つまり水際に生えるからミズナラと呼ぶのではないだろうか?。実際見渡すと、山に入るとトチとブナ。水際になるとミズナラとサワグルミが多くなる。

快晴で湿度も低い。爽快な日である。私は透き通る水が流れる沢を写真に撮った。下の写真である。左手の黒い影がミズナラである。この写真を撮った後、私はこのミズナラの根元を調べに近づいていった。

そして私は発見した!!!。発見したのである。マイタケを。

それは手のひらよりも小さな、黒い塊であった。 ん?・・・なんだろう…。と覗き込むように屈む。この瞬間がたまらない。ホンシメジをはじめて見た時、クリフウセンタケをはじめて発見した時・・・図鑑などを見て思い描いていたキノコにはじめて遭遇した時の感激…。そしてそれが間違いが無いと確信した時の喜び…こんな瞬間のために、大袈裟にではなく、私は生きている。

オ〜イ!!!

大声で私は叫んだ。これは今日の朝食の時の打ち合わせ通りだ。マイタケを見つけても、けっして慌てて採ってしまってはイカンぞ・・・と我々は話し合っていた。生えている様子もみたいし、全員を集め、それぞれが写真に収めてから、採らなきゃイカンぞ、と。

三人が寄ってきた。一風氏が「オッ!マイタケだ、やったね!!」と言って最終確認をしてくれた。我々はとりあえず、がっちり握手をした。とりあえず、天然のマイタケにめぐり会えたのだ。わがアウトドァライフの中でも、9/23日は記念すべき日になった。

同じ木の反対側で今度は弟子がさらにチッコイものを二株見つけた。私は内心ホッとしていた。o_kiraku一風に先を越されるのは仕方が無いが、弟子に先を越されるわけにはいかぬ。ギョウジャニンニクで私は不覚を取っているのだ。もしマイタケまで先に見つけられたら、弟子と師匠が交代である。昨日キクラゲを見つけただけで、弟子は生意気にも昇格を申請してきたのである。

マイタケの生えるミズナラは、太い。「3人で手を回して写真撮ろうか」と言ってたくらい太いミズナラに、マイタケは生える。と言うことは、だ。…そこにマイタケが生えるまでには、実に何百年という歳月が必要だ、と言うことではないか。そんな貴重な菌を、我々は探そうとしているのだ。200年越しのマイタケを…。

 

昼食はビールとオニギリ。都会人のo_kiraku氏は弁当。ティーピーが食べている弁当をねだりに来る。「スティ!」と命令するといつまでも食べないで待ってるよと言いながら一風氏がスティ!とやると、ティーピーは無視してパクッと食べた。「最近は犬も言うことをきかねぇ…」嘆く一風に爆笑。可愛い犬だ。

一風はせっかちである。歩くのも速い。さっき尾根のあたりにいたのに、気が付くと横にいたりする。旋風とは言いえて妙である。きっと小学生の頃は、同級生の女子のスカートを疾風のごとく手当たりしだい捲って喜んでいたに違いない。そんな雰囲気がある。一方o_kirakuは一見優しく見えてけっこう粘り強い。虚弱系に見せながら、葦のような強靭さがある。高校の頃、とんでもないブスを「好きだ」といって周りを油断させ、気が付くとクラスで一番可愛い子をゲットしている…そんなヤツかも知れぬ。ま、そんなことはどうでもいいのだが、考えてみれば我々3人は知り合って本当に間もない。それなのに話をしていてもまるで旧知の友のようだ。年齢が(奇しくも)同じ…ということも勿論あるが、けっしてそれだけではない、何かを感じる。


最初の発見は3本目のミズナラの根元。次の発見はそれから6、7本目の木であった。しかもその木の根元にはビッシリと株が…数えただけで7、8個の株が点在していた。残念なのは見つけたマイタケが幼菌だったことだ。少しだけ、時期が早かったのである。あと数日後であれば、きっと立派な株に育っていたことだろう。しかし考え方によっては、これが数日早かったら、我々はマイタケを見つけることが出来なかったわけで、これこそ天の配剤。見つかったことだけを感謝しよう。それにしても確率的には予想以上の発見率だ。一風氏が「macさんって強運だなぁ…」としきりに首を振っていた。この発見率は私にとっても不可思議であった。「幻のキノコ」ではなかったか?。

夕刻コーヒーを飲みながら明日の打ち合わせをし、一風氏は仕事に戻る。今日は十日町に辿り着けばいいので、村上市から海沿いを走り、新潟東港で防波堤一杯の釣り人を見学し、高速で南下した。


 9/24の出来事 

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