《ナメコ探索記》 2001/11/10
その日は朝から調子が良かった。何が良かったかと言うと、まずもって体調が良かった。弟子が3週間前、毒キノコの妖気にあてられたとしか思えぬ原因不明の熱病に浮かされて入院してから、私のほうも体調がすぐれなかった。先週の長野の帰りにも私は2年ぶりに熱を出していたのだ。それが二人とも、体調が戻ってきていた。
次に天気が良かった。次に、裏庭に捨て置いた栽培ホダ木からナメコが多数出ていた。それを採りながら、私はなんとなく今日はブナの森に行けば、いいことがありそうだと、感じていた。思い立ったが吉日で、私と弟子はすぐに出発をした。考えてみればもうキノコ狩りも終わりだ。最後に(今年良くお世話になった)ブナの森で締めくくるのはなんとなくメリハリがあっていいではないか。車もなんとなく、軽トラに乗って、出発した。
一時間半ぐらいかかって、現地に着いた。林道を登ってゆくと、樹種がブナに変わった。そこに大きな沢が流れている。雰囲気から、私はそこに車を止め、歩き始めた。ぶっつけ本番とはこのことだ。折から、冷たい雨が降り出した。体調が悪ければ、ここで気力も萎え、引き返していたかもしれない。雨に降られながらもまずは右岸を探索した。急斜面の右岸側を登ってゆくと、左岸側が視界に入った。左岸はなだらかで、何と言ってもあの笹が生えていない。ヨシ!と私は決意して沢を渡り、左岸に入った。入ったとたん、雨がやんだ。
非常に歩きやすい場所だ。ところどころに倒木もある。真っ先に見つけた倒木がコレである。なんだか巨人が倒れているようにも見えるが、こんな木には必ず何かしらのキノコが生えている。幹周りは2メーターぐらいだ。
この木にはムキタケと、小さなナメコが二つ・・・生えていた。小さくとも、ナメコはナメコである。菌がここに存在すると言う証拠だ。「探せばきっとあるぞ・・・」我々は歩き回った。しかし思いのほかブナの倒木が少ない。サワグルミであったり、トチノキであったり、カンバ類であったり・・・。
私はしばらくして大きなコブのある変わった木、ミズナラを見つけた。そしてそこに登っていって、少し離れたところから写真を撮っていた。その横にブナらしき倒木が転がっている。弟子がやってきたのであの倒木を調べるように言った。
「アッタ〜!!」 近づいていった弟子の叫び声。
あわてて飛んでゆくと、確かにナメコである。そしてその上の木にもなんと、ビッシリ生えているではないか!!。そしてその横にも・・・。
「やった〜ヤッタゼッ!!ハハハ・・・ぶっかけナメコだぁ・・・」我々は興奮してわけの分からぬことを口走りながら、写真を撮り、ナイフで収穫した。先ほどの雨のせいでナメコはみずみずしく濡れそぼち、なんとも旨そうな香りが鼻腔を擽った。ドサクサ紛れに弟子が今度こその昇格を願い出る。舞い上がっていた私は思わず「よし、分かった、昇格だ!!」とOKを出してしまった。
傘の開き具合といい、一番旨い状態だ。よくスーパーなどで売っている丸い幼菌は実際あまり香りも無く、この天然と比べたら雲泥の差がある。食い方も一風に教えてもらった少量の酒と醤油だけで煮詰めるやり方で食うと、なんとも言えぬこくと香りがタマラナイ・・・本当に旨いキノコである。
ややためらいながら・・・まぁ、記念写真でも載せておこう。見つけたという証拠にもなるし・・・。この指のピースサインが何とかならぬかと自分でも思うが・・・。
ナメコは3、4キロぐらい採れた。かごを持っていなくて、スーパーのビニール袋の大に一杯詰め込んだ。ニコニコ・・・ニコニコ・・・私は次の日まで機嫌が良かった。
このほかにもムキタケなどが採れたが、載せるまでも無い。帰り際にも、もう一本ナメコ倒木を見つけた。こちらのほうは傘が開ききって、それでもけっこう綺麗であった。ただ、あのヌメリスギタケに良く入っている虫・・・ヤスデのような黒い虫がたまに入っている。少し古くなったヌメリスギタケには一杯付いているのに、なぜナメコには少ないのだろうと考えた。・・・多分標高と発生時期により、虫自体が少ないのであろうと、勝手に考えた。