ギョウジャニンニクの話


 2001年6月3日。ついに私はギョウジャニンニクの自生にめぐり合った。 あしかけ10年の恋が実ったわけである。めぐり合いには伏線がある。

 私と弟子は、その前の日、妙高に行った。妙高はまだ4月であった。残雪がいたるところに残り、ゼンマイが芽吹いていた。そこで地元の人に会い、その人が「山アスパラ」と称するユキザサを一緒に採りながら、ギョウジャニンニクの話を持ちかけてみた。

 「このあたりに、生えてませんかねぇ…」

 「あるよ!」その地元のオッサンは、にこやかにそう答えた。地名を挙げ、1500メートルぐらいのところに生えているというが、しかし具体的な場所は教えてくれない。その人も群生は2ヶ所しか知らず、生命力の薄いソレは乱獲すると無くなってしまうからなぁ…。と、「教えてあげたいけど、教えられない」という雰囲気であった。私はそんな態度に好感を持っていた。私だってそうだ。ヤタラメッタラいい顔をして人に教えまくる人種は好きではない。そのての人が乱獲をする傾向にあることを私は知っている。

 ただ一箇所だけ、具体的な場所を教えてくれたが、それは戸隠の中社の参道であった。採るに採れない場所である。仕方なく私は近くに生えているアマドコロの写真を撮ったり、コシアブラ、トリアシショウマ、ヤマブキショウマなどを採って、帰路に着いた。雪深いこの地は同じ山菜でも太くて柔らかいものが出る。

 アマドコロの花

 ヤマブキショウマ

 次の日、つまり今日。私たちは近くのスキー場に行った。ネマガリのいい季節だ。天気も良かった。しかし行ってみると車車車・・・駐車できるところが無いくらいの車が来ている。みなタケノコ採りだ。恐ろしいくらいの人の数だ。少ししらけた私は峠を行き過ぎ、人のいなくなったあたりで脇の山に入った。何人かが入った後ではあったがそれでも腰籠一杯位は採れた。車に戻って弟子の戻るのを待っていると、車が私の前に止まった。車には地元の夫婦連れが乗っていた。彼らはネマガリ籾袋一杯の収穫をした帰りで、私も地元だとわかるとイロイロ話をしてくれた。

 ネマガリ採りで昨日一人道に迷って死んだそうだ…気いつけてな。

 このタケノコは採れば採るほど生えてくるから、かえって採ることはイイコトなのだ。採らないと逆に密生しすぎてタケノコが出ない、それ以前に藪に入れなくなる…。

 ひとしきりネマガリタケの話をした後、私は思いついて切り出した。「ギョウジャニンニクの生えている場所、どこか知りませんか…。」昨日のオッサンとの会話を思い出したのだ。二人は突如笑い出した。「ハハハ…ここに来るまでそのギョウジャニンニクの話をしてたとこだよ…」そして隣の奥さんを指差し、「こいつが山登りが好きで、今まで何度か見たよ」と言って、その後奥さんが○○、△△・・・と山の名前を挙げ始めた。知らない山もあったが、私の行ったことのある山もあった。

 その山はそこから数十キロで、相当上まで車でいける。お礼を言って別れた後、私は決意した。よし、行ってみよう。標高も1500メートルほどある、ブナとミズナラの原生林だ。

 ブナとミズナラの自然林

 「予感」というものがある。鮎釣りでも何でもそうだが、「なんとなく、今日は釣れそうだ」とかいうアレである。この日の私は車を走らせながら、なんとなくギョウジャニンニクを見つけられそうな気がしていた。とにかく自生しているものを見たことは、いまだかつて無い。買ってきて庭に植えること3度。場所が悪かったのか全て消滅している。今年はイロイロ聞いて植える場所も土も工夫したから多分根付くとは思うが、自生を見るのが長年の夢であった。なんとなくワクワクしながら、助手席で眠りこける弟子を叱ることなく、目的地に到着した。

 ここではネマガリがホンの出始めであった。妙高同様、まだ4月の初めの雰囲気だ。弟子が走り回って覚えたてのネマガリやらウド、ハリギリを採って歩くのを見ながら、私は随所に目を凝らし、今日だけはギョウジャニンニクの眼になり、探した。…探したが、なかなか見つからない。私の頭の中にはリンク仲間の写真が原本として焼きついていた。つまり、ギョウジャニンニクの群生である。どれもこれも群生の写真を載っけている。それが逆にひとつの盲点となっていることに自分自身気がつかなかった。少し嫌気がさして来た、その時。

 「コレって、なに?」 突如弟子の声がした。

 ふん?と指差すところを見ると、エッ?小さな片葉ではあったが、まごうことなきギョウジャニンニクではないか!

 ギョウジャニンニク!

 慌ててあたりを探した。あった、あった、あそこにも、ここにも…。少し道をそれるとおそらく(飛騨高山のギョウジャニンニク売りのオバサンの話では)8年モノぐらいの太さのヤツが、群生ではないが、点々と散らばりながら生えている。(やったぞ、やったぞ!)と心の中で叫びながら、私は夢中で写真を撮った。弟子は自分が第一発見者になった喜びのあまり、タイタンズダンスを踊り始めた。

 ギョウジャニンニク!

 20本ばかりを切り取ってきた。帰ってまず、洗って、地味噌をつけてかぶりついた。

 「旨い!!!」 以前食った時はニンニク臭ばかりが強烈だったが、今日はそれよりも葱の辛味の強い香りが鮮烈であった。生姜の爽やかさと葱の辛味、それとニンニクの臭いがミックスされたような、まことに摩訶不思議な味である。味噌にも良く合う。今までも大好きだったが、本日を境に、大大好きになった。やはり自分で採らなければ…。

 ギョウジャニンニクを見つけたことで、私の山菜採りは今年度やっと終了できた、ような気がする。コレで心置きなく鮎釣りに切り替えられる。ウン、ウン、今日は良い夢を見れそうだ。お休みなさい。


OUT DOOR

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